親の介護をしているが、転勤命令に従わなければならないか
私は夫婦共働きで、数年前から自宅で母親の介護しており、遠方への転勤は難しい状況です。
それでも転勤命令に従わなければいけないのでしょうか。
拒否できる可能性もある
家族の介護の場合、転勤命令を拒否できる可能性は、その他の場合と比べると高いです。それ以外の場合は、拒否できる可能性は極めて低いく、拒否した場合には最悪の場合には解雇となる可能性も高いです。
転勤命令と法律
会社の転勤命令に従うことについては、法律では定めがありません。
就業規則により配置転換(転勤)の命令が有効になります。勤務地が限定されて採用されている場合は除きます。
配置転換について就業規則で定められている場合、転勤命令は業務命令ですので、拒否すれば懲戒の対象となり、最悪の場合には解雇となります。
転勤を日常的に行っている企業では、就業規則に転勤命令の一文が書かれているのが一般的で、次のような文言が書かれています。「業務上必要があるときは、従業員の就業場所の変更を命ずることがある。」
一般的に、正社員の場合、職種や勤務地等を限定せずに採用され、定年まで様々な職種や職場で勤務することが前提となっています。そのため、正社員に対する配置転換(転勤命令)は、裁判でも業務命令の一つとして肯定的に判断されています。
権利の乱用
ただし、転勤などの配置転換が、権利の濫用とみなされることがあります。
たとえば、転勤などの配置転換が不当な動機や目的に基づくものである場合や、従業員の不利益が業務上の必要性を大きく上回る場合などです。
配置転換(転勤命令)が有効かどうかは、次の3点から判断されます。
- イ)転勤に業務上の必要性があること
- ロ)不当な動機・目的によるものでないこと
- ハ)労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がないこと
いじめや嫌がらせのような理由によるものは、(ロ)に該当します。
質問のケースのような「共働きで親の介護中」という件に関しては、(ハ)の「通常甘受すべき程度を著しく越える不利益」に当てはまる可能性があります。
通常甘受すべき程度を著しく越える不利益
裁判での「通常甘受すべき程度を著しく越える不利益」の範囲は狭く、病気がちの親の面倒をみる程度では転勤拒否の正当な理由としてみなされない傾向があります。
例えば、親の面倒をみる必要がある場合には、代替が不可能であるという事情がある場合が必要になってきます。そのため、転勤命令の有効性を裁判で争った場合、転勤拒否の内容が家族の介護であっても転勤命令が有効と出る可能性もあります。
最近では拒否できる可能性もある
育児介護休業法において、「就業場所の変更により子の養育や家族の介護が困難にならないように配慮しなければならない」となっていることや、ワークライフバランスの観点などから、最近では家族の介護が必要である場合には転勤を拒否できる可能性が、以前よりは、高くなっています。